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無限の大変 [バカにされないクスリ]

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* はじめに
私はサプリ(栄養補助食品)のおかげでまったく健康である。それで百二十歳までいきることにした。前途洋々たる未来をもつことになるが、幸か不幸か世間からも家族からもまったく何一つもとめられてない。それに不満があるわけでないが何か心にひっかかってる。私は地域の公立中学校から進学高に入学した。つまり頭がよかったらしい。でも一年目の夏休み。二階の窓から立ちあがる入道雲をみてた。その時に頭がわるくなったとおもった。それからどんどん馬鹿になった。大学にすすんでも馬鹿だった。数学がわからなかったからである。

* 高校の数学
高校で学期末テストなら授業でならったことがでる。その八割はできた。完璧でないが自分で納得できた。ところが実力試験というのがある。半分ぐらいはわかった。だが一、二問がまったくわからない。授業でならったこともない。珍紛漢紛。どうしたらこんな問題がとけるのか。一体誰がこれをとくのかとおもった。とけた人もすこしいたようだが、はずかしかったのできけなかった。


* 大学の数学
大学での数学ときたらもう暴力的だった。周囲を見まわたしてもわかってる友だちはいそうになかった。これが授業の様子。試験でない。先生も学生の理解を期待してるとおもえなかった。図書館で参考書をあさった。粗末な紙に印刷された昔の教科書のようなものをみた。すこし理解できた。昔の人もくるしんでるとおもった。高木貞治の解析概論というでかい本があった。デデキントの切断という奴がいた。これは連続性を証明するのに関係があるのだろう。こんなことをかんがえる人がいるのかと感心した。生半可な知識がふえただけだった。数学は物理、工学の必須の基礎である。おぼつかない知識のまま社会にでた。

* 気がついたら定年、で思った
社会では眼前のことに夢中になってると時間がすぎた。気がついたら定年をすぎてた。世間から何ももとめられず何者にもならず今にいたる。前途は寂寞としてここにある。何かひっかかる。たのまれてもないのにもってた荷物。それは数学だった。子どもの頃、私は中間子理論でノーベル賞をとった湯川秀樹博士に興奮し、こんな人になりたいといってたらしい。数学を勉強し物理や工学でえらい人になるのが夢だったようだ。だからむずかしい数学にいつも傷ついた。数学がわからないのに物理や工学をやっても大したことができるわけない。そうおもってた。くるしむ自分の姿を恥として友人にもらすこともできなかった。

* 数学の苦しみ
数学はおぼえるものでない。理解するものという。授業や参考書、受験雑誌でそうおしえられ、そうしんじてた。かたくなに理解しようとくるしんだ。だがすこしも成功しなかった。もうすこし心をひらいて悩みを友人に相談できなかったのか。皆んながどんなことをしてたかをしろうとしなかったのか。私は自分の弱味をあかし相談するだけの度量がなかった。図書館のような場所、本ににげてた。数学がすきなのにわからない。このまま生涯をおえることは自分がうまれてきたことを無意味にする。

数学がわからないために自分がもっとしりたいとおもった世界を半分、三分の一もしらずにしんでゆく。何のためにうまれ、いきてるのか。耐えがたいくるしみである。で、おそばせながらも数学をやることにした。

* 数学に取りくむ
ありがたいことに老人は伊達にぼけない。傷つくことに鈍感でいられるだけでなく訳のわからぬことをいうとか相手をわからせるつもりがあるのかと腹をたてる前にすこし謙虚に話しをきき、何をいいたいかをきいてみようとできるようになった。詳細ははぶくが数学とも折り合いをつけた。謙虚にまなべるようになった。死ぬまではまだまだ時間がある。ユーチューブで鈴木貫太郎氏の中学生にわかるようにオイラーの公式、e^iθ=cosθ+isinθを解説してる。たしか全部で十本あった。三回ほど繰りかえし内容をおぼえた。やっとできたとかんじた。それで何故できたかをここに記す。(注 e^iθは指数関数、eのiθ乗ということをこのように表示。つまり2^2は2の2乗である)

* できた、何故か
まず基本的考え。数学は暗記物。理解するものでない。膨大で精緻な知識が集積してる。それを一つずつおぼえてゆく。すぐわすれるので繰りかえす。またわすれるが繰りかえす。すると自分の中にすこしずつ知識が集積してゆく。それを整理整頓する。理解とあえていうなら、このことだろう。その上にさらに知識をのせる。そして膨大な知識の体系ができる。私はこれを目ざす。できた。いや、できるとおもった。鈴木さんのユーチューブについてはなす。

* 鈴木さんの説明
鈴木さんは塾の講師をやったらしい。教え方は直截。具体的。厳密な証明より意味、使い方を説明。役にたてばよいというようだ。私にぴったりだ。円周率、πの話し。まず合格率、競争率とか用語の解説からはいる。たとえば合格者が分子にきて分母に受験者がくる。円周率なら円周が分子にきて分母に何がくるかときく。直径である。定義の説明がおわった。ところで鈴木さんは数学の勉強では定義が大事。つぎに先人がやってきたことを利用するという。つぎにπの値である。これを円に内接する正十二角形をつくりその周の長さを算出した。これは東大の入試問題、πがたしか3.05よりおおきいことを証明せよとの問題の回答につながる。これをふやしてゆくことにより3.14...という値をだすという。sinθとかcosθの説明は三角比の説明である。

直角三角形の長辺と短辺がつくる角度をθとする。θの対辺を分子、長辺を分母にした値がsinθであり、残りの短辺の値がcosθである。これに余弦定理の証明、加法定理の証明がくわわる。さらに角度の表示には一周を360゜とする度数法と一周を2πとする弧度法の説明がある。直角三角形といえばピタゴラスの三平方の定理もあった。iという虚数単位の説明も必要だ。

実数部と虚数部からなる複素数、それを縦軸を虚数部、横軸を実数部とする複素数平面の説明がある。実数部、たとえば2、虚数部3なら、a=2+3iという点aを平面にさだめる。aとかbとかいう複素数の演算である。ベクトルのように加算し、かけ算する。かけ算では原点と点a、あるいはb。それと実数軸がつくる角度をα、βとするとかけ算した値は、おおきさは原点からの距離の乗算、角度はα+βとなる。オイラーの名前がでてくるeの定義である。

(1+1/n)^nでnを無限大にしたものだが、この説明、さらに説明は各所にわかれるが値の概算、eの性質、e^xの微分は何度やっても元のe^xにもどる。xの値が0ならばe^xは1となるとの説明がある。e^xでしめす指数関数の説明である。

まずa·a·aをa^3とするような自然数のべき乗の定義からはじめ、べき乗部分の演算。加減乗除への拡張、自然数から整数、分数、小数、さらに無理数を指数とする定義の拡張まで丁寧に説明してくれる。このあたりまでくると、やっとオイラーの公式の説明がちかづく。それはこうである。

* e^xの無限級数展開。sinx、cosxも
e^x=a0+a1x+a2x^2+a3x^3+a4x^4...と展開する。これを微分することでa0、a1、a2、a3などの値をだすが、f(x)=e^xとして、まずf(0)としてa0=1を算出。f'(x)と微分し0を代入、f'(0)=1からa1=1を算出。a2はf''(x)からf''(0)=2·1a2。a2=1/2!。順次、a3=1/3!、a4=1/4!と算出する。次にcosx、sinxだが、おなじように無限級数に展開し、微分しx=0を代入。a0、a1、a2、a3、a4などを算出する。これでe^x、cosx、sinxの無限級数を三列にならべ比較する。その際、e^xのxに虚数単位をいれ再整理する。

e^ix= 1+i/1!x-1/2!x^2-i/3!x^3+1/4!x^4+i/5!x^5-1/6!x^6+...
cosx=1 -1/2!x^2 +1/4!x^4 -1/6!x^6+...
isinx= i/1!x -i/3!x^3 +i/5!x^5+...

見事にe^ix=cosx+isinxとなってる。ここでたとえば、どうしてe^xを無限級数に展開することができるのか疑問。と考えこんだら完結できない。さらにほかにも疑問とするところがある。それを一々文句をいってたらとてもこのようなうつくしい世界にたどりつけなかった。先人の業績をしんじついていったほうがよい。さて長年、納得がいかないと私をくるしめてきたものがある。それは無限の扱いである。その話しである。

* 無限の大変
それは鈴木さんの説明でも重要な部分となってる。微分という演算をおこなう時に典型的にでる。まず定義である。
{f(x+h)-f(x)}/hでhを無限に0にちかづけてゆく。その結果の値がf'(x)とかyがf'(x)としてdy/dxとするものである。実際にy=x^2を微分する。
{(x+h)^2-x^2)}/h =
{(x^2+2xh+h^2-x^2)}/h =
(2xh+h^2)/h 。ここで分子と分母にhがあるので約分する。それが
2x+h。ここから無限とい操作がはじまる。こんな言い方。hを無限に0にちかづける。するとhはきえて2xがのこる。これがf'(x)とかdy/dxの値である。さっきの式を思いだしてほしい。分母にhがあった。これを0にすることはできない。だからhは0でない。無限に0にちかいちいさな値であるといってた。ところが式を変形し約分、分母からhがきえた瞬間、掌がえしだ。

0だといわんばかりと文句をいうとちがうという。無限にちいさい数だ。0でない。でも分母からhがきえた時、0といってるでしょう。ちがう0にちかいちいさな数だ。だったら「0にちかいちいさな数」がのこる。つまり2x+「0にちかいちいさな数」でしょう。いや2x。数学は厳密な論理で構成されてる。あくまでものこるでしょう。でもこれでよいと言いはる。では別の観点でかんがえる。

接線は曲線にある一点のみでまじわる直線という。ここで放物線と直線でかんがえる。ではある点a、x=1、y=1で放物線とまじわる直線をかんがえる。まずこの点aとほかの放物線上の点b、x=2、y=4の2点をとおる直線をかんがえ、この直線をうごかす。このbをゆっくりうごかしaにちかづけてゆく。無限にほそい棒で直線をつくり、それを無限にゆっくりとちかづける。aという点だけでせっする接線とできるか。無限にほそくても質量は0でない。無限にゆっくりでもうごいている。慣性の法則から一点でのみせっする直線をつくる。これは無限にむずかしい。y=x^3でかんがえる。

(x+h)^3=x^3+3x^2h+3xh^2+h^3。これからx^3をひく。のこったものが分子。分母のhで約分すると。
3x^2+3xh+h^2がのこる。これを無限に0にちかづける。
するとf'(x)=3x^2となる。hの項が二つあったがきえた。y=x^4ならこのhの項は、4x^3+6x^2h+4xh^2+h^3と三つのこる。これもきえるという。納得できるか。いつでも約分できるとはかぎらない。その場合どうする。

sinx/xはxを0に無限にちかづけると、1となるという。これはsinxの微分がcosxとなるが、この無限演算の時に必要となる。その証明はおよそ次のとおりである。

まずxy平面の原点を中心とし半径1の円をえがく。x軸からxの角度をもつ扇形をかんがえる。すると原点、扇形の頂点、さらにもう一点、x軸と弧の交点からなる三角形ができる。これを内接する三角形とする。つぎに原点、x軸の交点、そこから垂線を立ちあげ扇形の頂点を延長した直線との交点、これで三角形ができる。これを外接三角形とする。
内接三角形、扇形、外接三角形の三つの図形ができるがその面積を計算する。
内接三角形は、底辺X高さ/2=1·sinx/2=sinx/2
扇形は、円の面積X(扇形の角度/2π)=π1^2·x/2π=x/2
外接三角形は、底辺X高さ/2=1tanx/2=tanx/2
三つのおおきさをくらべる。
内接三角形<扇形<外接三角形。つまり扇形の面積は両者の間にくる。この関係と上の面積をつかい式を整理すると次の式になる。
cosx < sinx/x < 1
ここまでくるとやっと無限の演算にはいれる。真ん中はほっておいて、xを無限に0にちかづけると。
1 < sinx/x < 1。こうなるので結局、
sinx/x->1となる。
ここで注意するがsinx/xの分母のxを約分してなくす操作はやってない。真ん中にはふれず、その前後、後を操作して結論をだしてる。納得できるだろうか。図形がはいり直感的なので私は納得できた。でもこれでおわりでない。これを利用してsinxの微分が本番である。(注 鈴木さんが白板にこの図形をかいて説明してくれてる。よかったらそちらもご覧を)

* sinxの微分
{sin(x+h)-sinx}/hに無限の演算をおこなう。途中は省略して以下のとおり。
{-sinx・sinh}・{sinh/h}・{1/(cosh+1)} +cosx。このhを無限に0にちかづける。読みづらい式となって申しわけないがこの式の肝は{sinh/h}である。これが無限により1となる。これはすでに証明した。あとは、sinh->0、cosh->1だが分母が0となる場合でないから問題ないとする。すると。
d(sinx)/dy=cosxとなる。

* 数学と折り合いをつけて、それから
やっとここまできた。鈴木さんの動画の概説をやり、その中にある私の不納得事項を説明した。不納得だが折り合いをつけてうつくしいオイラーの公式にたどりつけた。この自分は成長したとおもえる。

あの頃の私だったら鈴木さんの懇切丁寧な説明にも一々つっこみどころをみつけ、そのたびにわからない。何故なんだ。自分をせめ他人をうらみ、ただ呆然としてたろう。数学の難しさにおそれおののき、すきなのにちかづけない自分におそらく絶望してただろう。鈴木さんの説明にはっとしたところがある。

何度ものべてるが分母が0だと無限をつかえない。だから式を変形して約分する。それができないなら別の手練手管をつかう。あの頃はこのからくりに全然気がつかなかった。おろかな私は何故こんな変なことをするのか、そしていつの間にか答がでてる。悪辣な手品師にだまされたか、傲慢な教団の導師に不承不承したがってる気持だったろう。呆然として自分をやたらせめる。未熟だった自分がよみがえってくる。私は現在、MIT(マサチューセッツ工科大学)のユーチューブ教材でGilbert Strang教授のcalculus(微分積分学)を視聴してる。それは工学、物理学、あるいは経済学に数学がどのように利用されてるかを重視してる。厳密な証明は優先しない。微分は変化や動きをあつかう。世界がどうかわってゆくのか微分方程式をつうじてもっとしれそうだ。一年ぐらいかけて勉強してみたい。そしてできたらあの頃の自分に、お前はそれほど馬鹿じゃないよといってやりたい。

最後にこの作品は私の窮作文庫(http://www006.upp.so-net.ne.jp/kusaq/index.html)に連作の一つにいれる。題名は仮題だが「あなたは騙されてる」。よければそちらもご覧を。
(おわり)

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