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統一球の芯 [野球]

2014年のプロ野球のシーズンがはじまったばかりに、また統一球の問題が勃発した。日本野球機構が三月に抜き打ち検査をしたところ、反発係数の平均値が0.426と規定値の上限0.4234をうわまわっていることが判明したと発表した。機構は供給元のミズノに早急な原因究明と、対策をしめすよう指示した。ミズノは、次のような対策をしめすとともに、あらたに検査をした統一球が基準に合致したので、四月末からこの合格球を供給すると発表した。

1) ボールの硬さの管理基準を設定し、製造工程内での全数検査の実施。(これは従来やってなかった)
2) 材料毛糸の含水率について基準を設定し、毛糸含水率検査を実施。(これが主要な原因らしい)
3) 出荷前検査は日本車両検査協会で実施。(これはミズノでおこなう検査と結果が異なる。このため機構側で依頼してた同じ機関で検査することとした)

こうして、上海ミズノで四月一八日から製造したボールの反発係数を測定した。結果、反発係数は基準内の数値0.416(合計6ダースの平均値)だった。これを四月末から提供する、ということとなった。一応、一件落着である。

もう一度

このことについては、飛ばないといわれてた統一球が2013年6月に、しらない間に飛ぶ球に変更になっていたと発覚。大問題となった。当時のコミッショナーが辞任する騒ぎだった。また同じようなことがおきたか、という感想だった。ところでこの問題を第三者による委員会が調査し報告書を13年にだした。これをよんで変なことに気がついた。

品質管理の話し

この国は品質管理の分野では世界に冠たる国であるが、どうも品質管理について十分な理解がない方たちが報告書をまとめられた。失礼だが指摘すべきことがされてない、と思った。具体的な説明である。大量の製品を供給する。例えば反発係数が0.4134の統一球を供給する。理想的な場合である。平均値が0.4134となる。個々の球の値は当然、この値の両側に対称にばらつきをもったものになる。理論的には期待値0.4134を中央の頂上とし両側になだらかに流れる正規分布曲線をえがく。この理論をもとに生産現場では一定の値(平均値)と個々の球のばらつきが一定の範囲におさえられた製品を供給する。

ところでミズノは、機構側に次のような約束をしたという。
1)平均値を0.4134に限りなくちかくする。
2)個々の球のばらつきを0.4034から0.4234の間におさめる。これは正規分布の標準偏差値からだしたもの、と思う。

これをもとに契約がかわされ、球が供給されるようになったが、13年、14年と問題がでた、というわけである。上記の記事にからみると機構側は、どうやら実測された平均値が個々の球のばらつきの範囲におさまっていれば合格と考えているようだ。これはこれまでの説明でわかるように間違った基準を適用してる。たしかにはっきりしないのだが、「0.4134に限りなくちかくにする」という基準に合格してるかどうかを検査しなければならない。にもかかわらず、してないということである。13年の時には一体何をしてるのかと思ったし、14年もまたか、と思った。でもネットで改めてしらべ、また考えてもみた。すると若干ちがった感想となった。つまり下のとおりである。

1) ミズノは品質管理にちゃんとした考えをもってる。
2) 機構側にも品質管理に理解ある人がいるらしい。

で、あらためて問題点を確認する。
ミズノと機構の功罪
立場約束検証
ミズノ目標をしめし、個々の球のバラつきの許容値をしめした。適切 品質管理の専門家として、検証の具体的方法も提案すべき、という考えもある。あえて指摘すれば問題点
機構 受諾。これには問題はない 6ダースの球を実測、平均値のみを算出。不十分。
個々の球のバラつきの許容値を、算出された平均値の許容値に流用。不適切

何故こうなるのか。

1) アグリーメントに0.4134の下限値がしめされている。これは平均値である。個々のバラつきがあるのは当然だが、その許容値はしめされていない。だから機構側が具体的数字をしめすのは困難だった。あるいは、
2) 検証の時に、平均値を算出するほかに、バラつきも検証してる。しかし、品質管理の情報がもれることをおそれるミズノに配慮して公表していない。

こんなことか。わたしは機構側の事務方には品質管理を理解している人がいると思ってる。その話しをする。ネット上である記事をみつけた。そこでこんな表をつくった。わたしは、このような基準が2013年のシーズン前に機構側とミズノのあいだで、ひそかに話しあわれたのではないかと思っている。

幻の基準との比較
比較下限値目標上限値
基準0.40340.41340.4234
幻の基準0.41450.415250.4160

これを解説する。目標値を、0.41525としてるが記事では、上限値と下限値のみがしめされていた。比較の便宜でわたしがつくった。これは、目標値を0.41525に設定する。それは「飛ばない」という批判にこたえ、上方に修正した。下限値、上限値は、個々の球を実測して算出する平均値の許容範囲である。個々の球のバラつきの許容範囲でない。こう解釈すると納得できる。さらにミズノとしては目標値を明示して無用な負担をさけたい。そのため、たんに 許容範囲のみをしめした。これも納得できる。

ところが、冒頭にしめしたように、抜き打ち検査で上限値0.4234を上まわる0.426だった。ミズノを指導した結果、今度は0.416とう値だから合格という。何もかわってないみたいだ。ひそかな動きはひそかなまま、かくれているのかもしれない。それに、とぶようにする、という話しがあったが、結局、基準はかわらなかったのか。

思うこと

わたしは、正規分布、標準偏差などは教養として学んだ程度である。ミズノの約束をこの考えで解釈するのはわたしの見当違いかと心配になった。専門家がどうみてるのか、あらためてネットをしらべた。二点みつけた。

一つは、目標を下限値にすれば、正規分布曲線から、製造した球の半分くらいは下限値を下まわる、と指摘した。大量の製品を製作すれば、個々の製品の値が正規分布となる。この品質管理の考えをふまえた見解である。安心した。そのとおりだ。

あと一つである。一試合平均のホームラン数とそのバラつきをしらべてた。するとホームラン数が11年をさかいに激減したが、バラつきも減少したと指摘した。下表のとおりである。
一試合あたりの平均ホームラン数の標準偏差の推移
0607080910111213
標準偏差0.170.190.270.170.260.140.090.16


これは以前の四社が供給していた体制からミズノの一社体制になった中で品質管理が向上したと指摘した。品質のよい、バラつきのすくないボールを提供できた、と評価している。標準偏差の値を算出してまで説明してくれた。この二つの記事はいずれも、2013年、ボール変更の事実が発覚したほとんど直後にかかれたものである。品質管理の専門家は関心をもって、みてた、というわけである。

機構にも品質管理の考えを理解する人がいるようだが、どうして今回の対応になるのかな。専門家がいっても、かわらなかった。わたしがいっても、かわらない。そう思うが、やはり簡単にいっておく。専門家をいれて、バラつきまでふくめて実施上の基準をつくる。そして検査をした方がよい。

関連リンクhttp://atac2012.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html

後日の追記である。もう昔の話だが前のコミッショナーを強く批判した調査報告書が公表されている。これを紹介する。法曹界のかたがたが作成した。反発係数の法的根拠を説明したくだりは非常に参考になった。指摘はするどい。しかし残念ながら品質管理の理解が不足してる、と思う。(以下追記部分)


第三者委員会は、三人の法曹関係者からなり、そのもとに四人の弁護士が補助するという体制で、調査し、約四か月の後に報告書をまとめ、加藤コミッショナー宛に報告した。下が第三者委員会の報告書のうち、検証結果の概要の抜粋である。右側がそれ、左側はその心をおしはかったものだ。

第三者委員会調査報告の概要
その心報告書
加藤コミッショナーが主導して、統一球の使用を決定した。それを下田事務局長が実行にうつした。実際に提供するミズノとの契約内容は、球の反発係数0.4134が下限であるのに、それを下まわるものも許すものだった。このボールが公式戦でどんどんと使用された。

このことは、ごくわずかな事務局員をのぞいて他の誰にも、だまって、すすめられた。
(1) NPBは、2011年、加藤コミッショナー主導の下に、1軍公式戦用の統一試合球の導入を決定し、ミズノとの間で、「プロ野球統一試合球に関する契約書」(NPB側記名者は下田事務局長)を締結した。しかし、その契約書において定められた仕様は、平均反発係数が、両リーグがリーグ内の申合せ事項として定める「アグリーメント」の付録である「プロ野球試合球使用球に関する規則」の定める許容範囲の下限値0.4134となることを目標にするとしながら、同下限値を下回ることも許容する内容のものであった。そのため、結果とし同下限値に達しないアグリーメント違反のボール(いわゆる「飛ばないボール」)が公式試合において大量に使用され、この状況が2011年及び2012年の両シーズンにわたって常態化することとなった。上記アグリーメント違反の契約締結及び違反球の使用の各事実については、NPB事務局員のごくわずか一部が知っていただけで、他の関係者や外部の者には知らされていなかった。
飛ばないボールの批判がたかまったので下田事務局長はこれはヤバイとばかり、ミズノに決まりどおりの球にするよう指示した。ボールのゴム芯を細工した。この結果飛ぶボールが使用されることとなった。これはだまって実行された。下田事務局長と数名の事務局員だけがしっていた。これは2013年6月11日までつづいた。 (2) 下田事務局長は、アグリーメントとの抵触問題を解決し、球団関係者の「飛ぶボール」を求める声(特にセ・リーグではこの傾向が強く、12球団全体としても同様の意見が優勢であった)に応えるために、2013年用統一球のゴム芯を変更して、反発係数をアグリーメントが定める下限値内に収めることを決め、ミズノに指示して製造を開始させた。

この結果、2013年のシーズンのオープン戦の途中から新仕様の統一球が使用されるに至ったが、変更の事実は外部に公表されず、NPB事務局内部でも、下田事務局長以下数名の事務局員だけの秘密とされていた。この状態は、2013年6月11日まで続き、この間、仕様変更された統一球を使った公式戦が、大半の選手及び球団関係者、観客、マスコミ等に知らされないままに行わてきた。
下田事務局長は6月11日の選手会との折衝で、せめられて変更の事実をもらしてしまった。記者の取材に加藤コミッショナーに相談したともいった。ところが翌日には、それはなかったと訂正した。あれは魔がさしたのだという。それからは何度きかれても、なかった。自分の職務怠慢だといいはった。 (3) 下田事務局長は、2013年6月11日のプロ野球選手会との事務折衝の席において、選手会側からの質問に対し、反発係数を高める方向で「調整」したことを認めるに至った。下田事務局長は、その後の記者らの取材に対しても、統一球の仕様を変更したことを認め、その変更につき加藤コミッショナーと相談して進めてきた旨の発言をしたが、翌12日、NPBが設けた記者会見の席では、加藤コミッショナーと相談をしながら進めたことはなかった旨、発言を訂正した。下田事務局長は、当委員会による調査検証の段階でも、加藤コミッショナーの承認を受けずに仕様変更を進めた旨の供述を繰り返し、それが自身の職務怠慢によるものであることを認める姿勢を崩さない。
加藤コミッショナーはこの変更をしらなかったと強く主張する。すこし注意すれば、たちまちわかることだった。また、このような事態を察知できる能力があるとしてコミッショナーになったはずである。承知、不知のどちらであっても、同じくらい重大な責任がある。 4) 加藤コミッショナーが仕様変更の事実を知っていたかどうかについては、本人が強く否定し、下田事務局長をはじめとするNPB事務局員もこれを否定する供述をしており、これを覆すに足りる客観的な証拠は発見されていない。したがって、加藤コミッショナーも出席した実行委員会における議論の状況等の点も考慮すると、その疑いが完全に解消されたともいえない状況にある。しかし、仮に、加藤コミッショナーが変更の事実を知らなかったとしても、その地位、職責及び職歴から見て、ごくわずかな注意を払いさえすれば、変更の事実を容易に知ることができたことは明らかであり、これによって混乱を回避する措置を執ることも可能だったと認められる。いずれにしても、加藤コミッショナーが本件に起因する混乱を招いた責任を免れることは許されず、その責任の程度も、知っていながら事態を放置したことと比べて軽減されるべき性質ののではない。


この下まわるという記事を補足する。次とおりである。

ミズノは反発係数の下限値である0.4134を目標値として、それを実行するための条件として、平均値が0.4134とし、それを中心に0.01下まわる値として、0.4034、また0.01上まわる値として0.4234を設定すると提案して、それがみとめられた。報告書はこれを下限値を下まわることをみとめた不当な契約だと判断したようだが、ここには異論がある。下限値は平均値としての値である。

大量の製品を一定の品質をたもって供給するミズノの提案は妥当である。この契約もその意味に理解すべきである。ところが統一球を検査する時に6ダースの球を検査し、その平均値をだした。この平均値が下限値を下まわった値をとったのに、妥当と判定した機構側がおかしい、と理解すべきである。だから契約をこう理解すれば妥当である。しかし検査する時に困る。検査で平均値と球のバラつきを検証しミズノが提供した球が妥当か、どうか検証する必要があるのに、契約には具体的な定めがない。この意味で不十分な契約だ。だから下田事務局長が批判される。こうなるべき、と思うが、やはりややこしい。とはいえ、この誤解をもって下田さんを批判していて妥当でない、と思う。

この報告書は、プロ野球機構、各球団、その関係を法的に整理しておしえてくれる。反発係数の法的根拠も詳細に記述されて、とても参考になった。品質管理の専門家がこの委員会にくわわっていたなら、もっと違った内容となっていただろう。残念に思う。

第三者委員会報告書全文:http://p.npb.or.jp/npb/20130927chosahokokusho.pdf

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